セキュリティトークン(証券型トークン)がなぜ騒がれているのか?トークン化のメリットとは?
久しぶりのブログです。メルマガを書くようになってから、そちらがメインでしたので、あまり更新できませんでした。さて今回は、セキュリティトークンについてです。
セキュリティ(証券)トークンという言葉が暗号通貨/ブロックチェーン界隈では頻繁に見るようになってきました。ICOから派生し、STO(Security Token Offering)と呼ばれ始めていて、HarborというプロジェクトはPICO(Private ICO)と名付けていたりもします。
遡ると、2018年の始めにアメリカの証券取引等監視委員会(SEC)がICOに対して手厳しいコメントをして以来、この流れは強くなっていきました。
その時期にステルスでチームアップしていたHarborや、Polymathといった「セキュリティトークンを発行するための規格やプラットフォームのプロジェクト」に注目が集まってきました。
※Security(セキュリティ=証券) Tokenで、セキュリティトークンと呼ばれますが、攻撃から守るためのセキュリティという意味とは異なることを注意してください。
ここでは、プロジェクトにフォーカスせず、もう少し広い視点で、「セキュリティをトークンにすると何が良いのか」を書いていきます。暗号通貨に詳しくない方にも分かりやすいように、なるべく平易な言葉で、もしくは専門用語の説明を加えながら、書いていきます。
暗号通貨に詳しい方にとっても、ちょっとしたトレンドが伝わるように書いていきます。
このポストにおける、セキュリティトークンとは、証券法の元で適切に規制されたブロックチェーン上のトークンのことを指します。債権、デリバティブ、不動産、エクイティを含みます。
またSECにより「セキュリティ」と認定されたまだ使う用途のないユーティリティトークンを含みます。(ユーティリティトークンとはプロダクトの利用券としてのトークンで、現在多くの場合、そのプロダクトがまだ完成していません。)
具体例
はじめに、セキュリティトークンをイメージしやすいように具体例を紹介します。例えばSwarmというプラットフォームがありますが、8月にRobinhoodというベンチャー企業の株式のセキュリティートークンが扱われました。同社は未公開株式ですが、株価に連動してトークン価値が変動します。
Robinhoodは、一部では有望ベンチャーと言われていて、Lyft, Airbnb, Magic Leap, Slackなどに出資をした名門VCのAndreessen Horowitzも出資をしています。(参考:
Invest in or sell pre IPO shares of Robinhood)
以下がSwarmの実際の画面です。
またトークンのマーケットプレイスを作るSmart Valorは以下のようなデモを公開しています。こちらではロンドンのビルの所有権や、ソーラーパネルの所有権を分割しトークン化して、例に挙げられています。
またつい最近の例でいうと、証券トークンを扱う取引所OpenFinance Networkがローンチしました。この画像はデモ画像ですが、同じように不動産がトークン化されリストされています。
それではこういった金融商品・証券をトークンのすることのどこに利点があるのでしょうか。
分割所有権
商業不動産市場は単価が高いです。多くの人は、例えばニューヨークの高層ビルを買うほどの余裕はありません。
投資するためには、仲介者を通じての投資信託(例えばREIT)などでそのニューヨークのビルが入っているものを保有するしかありません。それらは投資信託ですから他の資産と一緒になっていることがほとんどです。
セキュリティトークンであれば、単価の高い資産に対して投資可能となり、その資産が細かく分割されればされるほど、一般投資家レベルで資産配分が様々な形でできることになります。
これによって、例えば、六本木のビルをロングして、品川のビルをショートし、「港区マーケットニュートラル」のようなポートフォリオを自作することもできます。
デリバティブのプロトコル開発が必要になりますが、ここには既にdY/dXというプロジェクトがプロトコル開発を進めています。
このように分割所有権による取引が盛んになっていくと、価格決定も最適な金額に近づき、今まで単価が高くてあまり取引されていなかった市場は活発になっていきます。
24時間の取引とグローバル市場
株式の取引市場は常に開いてるわけではありません。朝始まって、夕方には閉じます。
暗号通貨取引所のように休みのない取引時間(営業時間)であれば、基本すべてのタイムゾーンから、世界中から参加の間口を広げることになり、流動性も増します。ブロックチェーンが24時間365日取引に必ず必要かと言えばそうではありませんが、普通に運営をするとコスト的に馬鹿にならないため、トークン化することによる一つの恩恵です。
コンプライアンス/法律の遵守の自動化
これはHarborやPolymathといったプロジェクトが実装を試みていますが、この自動で規制を行える点が一番大きなメリットと思います。
どこの国の人には交換を実行しない、ある投資家ステータスの人にだけか交換(売買)できる、などの設定をトークンにプログラムする(スマートコントラクトを定義する)ということです。
規制は、資産の種類、投資家のステータス、買い手や売り手のいる場所、証券発行者のいる場所、などによって様々な組み合わせが生じます。そのためいろんな国のいろんな規制主体が関わることになります。また書類でやり取りが行われることが多く時間がかかったりコストが高くし、市場も別々なり、流動性が低くなります。
トークン化することにより、国境を超えて証券を販売するときの複雑になる業務を、基本自動化することができます。(できるよう目指しています)。
セキュリティトークンに取り組むプロジェクトに話を聞き、彼らが割と信じていることが、コンプライアンスが障害なく遂行できるように自動化されるため、「規制当局はセキュリティをトークン化するように義務付けるかも」ということです。
例えば1996年にSECは、EDGARでの電子申告を義務付けていますが、これと同じようなことです。
※EDGAR(エドガー、Electronic Data-Gathering, Analysis, and Retrieval system)とは、企業その他法人が1933年米国証券法と1934年証券取引所法等に基づき証券取引委員会 (SEC)へ提出が義務付けられている書類を自動収集・確認・分類・受理等するためのシステムの名称です。なお、日本の金融庁所管のEDINETは、EDGARをモデルとして作成されています。-
流動性の増加
上で挙げたように、世界中からのアクセスが可能となり、かつ単価の高かった資産のアクセスが用意となり、未公開株式などの流動性があがります。
さらにコンプライアンスの自動化で取引が複雑でなくなるため、さらに流動性が向上します。
また暗号通貨の価格の上昇で誕生した暗号通貨長者の人の中には、法定通貨(ドルや円など)に変えることなく、別の資産に分散化させたかがっている層がいるので、そこからの流動性向上も期待できます。
流動性の増加は価値の上昇も期待できますから、一時はバブルと言えるところまで加熱するかもしれません。
コスト減少
これまでの理由から証券取引所などの作業は楽になりますし、発行主体も自動でコンプライアンスが行われれば、負担が軽減しコスト減を期待できます。
またスタートアップが買収された際、買収同意書に基づいて、資本政策表を調整されますが、すべて所有権がトークン化されると、資本政策表もリアルタイムで更新されます。
※資本政策表:
各ラウンド(増資)毎における株主とその保有株式数・保有割合および株価(バリュエーション)、の推移を一覧にまとめた表。
優先権のような条項もセキュリティートークンに設定できれば、当事者が意思決定をする上でシミュレーションをするときにも簡単に分析もできるかもしれません。
資産の扱いやすさ
現在、電子マネーのサービスのPaypalからKyashにお金を送金できませんが、EthereumのERC20規格のセキュリティトークンであれば、異なるウォレットでもやり取りができます。
証券トークンであるとさらに配当の受け渡しなどが楽になります。
例えば、上の具体例であげたような不動産のトークンを買い、あるビルの所有権を持っているとします。
テナントからのリース支払いが、毎月、ERC20のステーブルコインに変換され、すべての所有権トークンを持っている人にわたすことも可能です。
このとき、ウォレットの種類は関係なく、ERC20に対応しているものであればOKです。
ERC20でなく別のチェーンであったとしても、将来的にCosmos、Polkadotといったようなクロスチェーンのプロトコルが実装されれば、セキュリティは標準化されて、互換性の旨味を享受できます。
最後に
大きなトレンドになりつつあります。少し流行り、また過度な期待が加熱を呼ぶかもしれませんが、HarborやPolymathがやっているような規格化が進めば、単なる流行りから標準になる可能性は高いです。
8月にはtZeroが、セキュリティトークンにて$134milionドル(約150億円)を調達しましたが、このような例が今後もいくつか出てくるように思います。
ちなみに先日ローンチしたTokenLabでは暗号通貨/ブロックチェーン関連の調査・リサーチを進めていて、セキュリティトークンで言えば、Harbor/Polymath/OpenFiinance Network/Securitizeの調査も実施しています。
ご興味のある方は無料期間もあるので、お気軽に見ていただければと思います。